各家庭で使い切れない未使用食品や、食べきれなかった食品を持ち寄り、それらをまとめてフードバンク団体などに寄贈する「フードドライブ活動」をご存じでしょうか。フードドライブとは、食品ロスの削減と食の支援につながる身近なボランティア活動です。今回は、イトーヨーカドーの店内に設置する寄贈食品回収ボックス(フードドライブ回収ボックス)の仕組みや、集めた食品の届け先となるフードバンクの活動など、フードドライブ全般について、セブン&アイグループのbet365 日本 語の取り組みを取材しているライター大森が取材してきました。
目次
そもそもフードドライブって何?
「フードドライブ」とは、一般家庭で消費しきれない食品を集め、自治体や地域の福祉施設・フードバンク団体などへ寄贈する活動を指します。似た言葉に「フードバンク」があり、こちらは食品製造業者や小売店などの過剰生産や過剰仕入れなどが原因で販売期限(消費者にいつまで販売してよいかという期限)内にお客様に販売できなかった、まだ食べられるのに廃棄されてしまう食品を、食の支援を必要とする方々に無償で届ける団体・活動を指します。「フードドライブ」・「フードバンク」ともに1960年代にアメリカで発祥した活動ですが、日本では、2004年にフードバンクのNPO法人が初めて認証され、徐々にその活動が知られるようになってきました。近年社会問題として取り上げられる機会が多くなった「食品ロス」と「貧困問題」を解決する施策の一つとして注目されています。
とても意義のある活動ですが、活動していくにも、寄贈される食品がないと成り立ちません。フードドライブに活かせるような食品の量は、はたしてどれほどあるのでしょうか。
日本の食品ロスの量は年間約600万トン(総務省 平成30年度確定値)。国民一人あたりお茶碗約1杯分(約130g)の食べものが毎日捨てられている計算になります。お中元やお歳暮でいただいたそうめんや缶ジュース、まとめ買いをしすぎてしまったレトルト食品や缶詰、調味料など、食べきれなかったり、口に合わずにそのまま捨ててしまったりなど、さまざまな理由で廃棄してしまった家庭から出る食品ロスは、全体の約半分を占めます。そのような、食品棚の奥で眠ったまま消費期限を迎えて食べられなくなる、食べられるのに捨てられる食品を、フードバンクを通じて必要とする方たちに届けることで食品ロスの削減につなげることができます。
しかし「どこへ食品を寄贈すれば良いのかわからない」という方が多いかと思います。
イトーヨーカドーでは2019年度より一部店舗において「フードドライブ回収ボックス」を設置する取り組みを始めました。その背景について、イトーヨーカ堂CSR・SDGs推進部マネジャー(2021年7月取材当時)の原田晴子さんは次のように話します。
※2021年7月取材当時
「セブン&アイグループは環境宣言『GREEN CHALLENGE 2050』において、食品ロス・食品リサイクル対策として、2050年までに食品廃棄物量の75%削減(売上100万円あたりの発生量13年度比)と食品廃棄物のリサイクル率100%を目指しており、食品ロス削減へ向けた取り組みをグループ全体で進めています。これはグループの売上の約6割を食品が占める企業としての責任があるからです。食品ロスの全体の内、約11%がイトーヨーカドーのような食品小売業から発生しています。イトーヨーカドーでは、適正量を仕入れるという大前提のもと、食材のバラ売りや小分けパック、カット野菜などの商品を揃えることで、お客様が必要な分だけを購入できる工夫を行うことで、家庭からの食品ロスを減らす取り組みを行ってきました。また、2017年度からは、一部の店舗で、賞味期限内だが販売期限を迎えて廃棄となる商品のフードバンク団体へ寄贈を開始しました。そうした活動の中で、イトーヨーカドーでお買物をしてくださるお客様のご家庭から出る未開封食品の廃棄にも着目し、2019年度よりフードドライブ回収ボックスの設置をスタートすることになりました。その後発生した新型コロナウイルス感染症の感染拡大により、事業活動の自粛で職を失うなどが原因で食の支援を必要とする方が急増し、フードバンクの需要がさらに高まっています」
当初は寄贈食品の受け取り窓口となるフードドライブの特設カウンターを期間限定のイベントとしての実施でした。特設カウンターに気づいていただいたお客様から、「今日、買物に来て初めて知った。寄贈できる食品が家にあるのに今日限りなのは残念」、「期間限定ではなく、常時取り組んでほしい」というご意見が予想以上に多く寄せられたため、2020年6月より常設窓口となるフードドライブ回収ボックスの設置を決定。「イトーヨーカドー 横浜別所店」を皮切りに、現在は神奈川、埼玉、千葉、東京を中心にヨークマート、ヨークフーズを含む100店舗(2024年10月現在)で取り組んでいます。
では具体的にはどのような取り組みを店舗は行っているのでしょうか。詳しく聞いてみましょう。
「もったいない」が
「ありがとう」に変わる場所
フードドライブ活動に積極的に取り組んでいる店舗の一つである「イトーヨーカドー たまプラーザ店」管理統括マネジャーの中村浩生さんに、店舗での取り組みやフードドライブ回収ボックスの仕組みについて聞きました。
イトーヨーカドー たまプラーザ店 管理統括マネジャー 中村浩生さん
「イトーヨーカドー たまプラーザ店では、2020年秋にフードドライブ回収ボックスをイベントとして設置し、2021年春から常設としています。当店は缶、ペットボトル、発泡スチロールトレイ、紙パック、小型家電などの回収ボックスをご利用される方がこれまでも多く、目にとまりやすい正面入り口付近に設置しております。環境への意識が高いお客様が多いと感じております。そのため、フードドライブ活動に関してもどのような取り組みなのかを知ってもらえる機会があれば、賛同いただける方が多いのではと考え常設を開始しました」
そう、中村さんは話してくださいました。
続けて、店舗での取り組みについて
「無人の状態でフードドライブ回収ボックスを常設している店舗も多いのですが、当店ではサービスカウンターでお客様から直接食品をお預かりしています。『いただきものだけど、うちでは食べないから』といった食品を対面でお預かりすることで、お客様への感謝をお伝えしたり、受取可能な食品をお伝えしたりとコミュニケーションが取れる事も大切だと考えております。さらに、地域ケアプラザ(※1)の方とも交流をしていて、地元のフードバンクや子ども食堂(※2)に関する情報をまとめたフリーペーパーに、フードドライブ常設場所としてご紹介いただき認知拡大を図るなど、店舗独自の活動も積極的に行っています」と教えてくださいました。
※1 横浜市の福祉保健活動や在宅介護支援をする施設
※2 地域住民や自治体が主体となり、無料または低価格帯で家庭における共食が難しい子供たちに対し、共食の機会を提供する場
イトーヨーカドーでは、お客様から寄せられた食品は、週に一度各店同じ曜日に、入荷商品を降ろして空になったトラックに積み込み、各店からイトーヨーカドーの物流センターに集められます。そして提携するフードバンク団体にお引き取り頂き、そこで仕分けされたのち、各地の社会福祉協議会や地域のフードバンク団体などへ提供されるという仕組みになっています。食品を必要とされる方々の手元に届くまである程度の期間が生じるため、フードドライブで受け付け可能な食品にはいくつかの条件が定められています。
<条件>
・内装が破損していない未開封のもの
・賞味期限が明示されているもの
・賞味期限が2カ月以上残っているもの
・常温保存できるもの
このような条件やルールのもと集められた食品が、フードバンク団体にわたります。では、フードバンクではどのような活動が行われているのでしょうか。話を聞いてみましょう。
工程の中で重要な役割を果たす
フードバンクとは?
イトーヨーカドーの主に神奈川県下の18店舗で集めた食品の寄贈先は、『公益社団法人フードバンクかながわ』です。ここは神奈川県内の非営利協同12団体により設立されたフードバンク団体。企業、行政、個人などから寄贈された食品を管理し、約180におよぶ社会福祉協議会や地域のフードバンク団体、児童福祉施設、子ども食堂などへ配布しています。
寄贈食品は「主食・麺類」、「副食・調味料」、「お菓子・嗜好品」、「飲料・その他」の四つに分類され、そこから賞味期限ごとに仕分けされます。そして各団体の希望食品を可能な限り考慮し、食品が受け渡される仕組みです。『フードバンクかながわ』の役割について、事務局長の藤田誠さんにお話をお聞きしました。
「『フードバンクかながわ』のモットーは、『もったいない』を『分かち合い』『ありがとう』へ、です。『もったいない』とは、食品ロスを減らし食品の価値を活かすこと。『分かち合い』は、フードバンクを通じて地域の助け合い・支え合いを実現すること。『ありがとう』は、生活に困っている人、社会的に弱い立場にある人々の食のセーフティーネットを目指すことを意味しています。日本の食品ロスは年間約600万トンと膨大ですし、貧困に苦しんでいる方々は予想以上にたくさんいらっしゃいます。私たちの活動をもっと知っていただきたいと思いますが、フードバンクやフードドライブそのものをご存じない方々は多いのが現実です。イトーヨーカドーさんのように来店者数の多いお店でフードドライブを実施していただけると、フードバンクの認知にもつながります。2022年度にイトーヨーカドーさんから『フードバンクかながわ』へ届いた食品は計約21万トンにのぼります。それだけ店舗へ寄贈されたお客様がいらっしゃるということであり、これは私たちも大いに助かっています」
そう藤田さんは話してくださいました。
『フードバンクかながわ』から個人へ食品を直接提供することはありませんが、配布先の団体を通じて「中学生の子どもにお昼ごはんを持たせてあげられるようになりました」、「ごはんを食べさせることができ、子どもが少しふっくらしてきてうれしいです」、「学生の一人暮らしかつ新型コロナウイルスの影響で、アルバイトができない状況でした。大切に食べさせていただきます」など、たくさんの感謝の声が届くそうです。
さらに藤田さんは、『フードバンクかながわ』に寄贈される食品に関して
「届けられる食品で重宝するのは、缶詰やレトルト食品といったおかず類です。次にお米です。その日に食べることすら困っている方が多いので、日常の食事になる食品が喜ばれます。そうした食品を捨ててしまうのはもったいないだけでなく、環境にも負荷がかかります。たとえば食品の焼却処理過程で温室効果ガスが排出され、地球温暖化を助長してしまうことがあげられます。こうした環境への負荷を避けるための取り組みは、意識を少し変えるだけで効果があります。まずは食べ残しをやめること、必要以上に買わないこと、こういったことをみんなで取り組めば大きな効果につながります。少しでも食品ロスを減らし、『もったいない』を『分かち合い』『ありがとう』への精神へ変え、フードバンクの活動を広めていきたいと考えています」と話してくださいました。
藤田さんへの取材を通じ、「フードドライブは誰もがすぐに始められる環境保全活動であり、小さなボランティア活動であるのだ」とライター大森も実感しました。
企業としての取り組みを聞いてみた
まだまだ認知度が低いフードドライブの活動をより多くの方に知ってもらうため、イトーヨーカドーではどのような取り組みを行っているのでしょうか。改めて原田さんに聞きました。
イトーヨーカ堂 CSR・SDGs推進部 マネジャー 原田晴子さん
※2021年7月取材当時
「フードドライブがどういった取り組みなのかを知ってもらうため、ポスターやチラシ、のぼり旗など、店頭での地道な告知が大切だと感じています。お客様はお買物に来られる前、ご自宅の食材の在庫チェックをされていると思います。その際『これは食べないから、フードバンクに寄贈しよう』ということを習慣にしていただけたらうれしいです。お買物をしていただきながら、日本が抱える社会問題を解決する一助となることも、私たち小売店の存在意義の一つだと感じています」
続けて原田さんは、
「イトーヨーカドーは地域に密着した総合スーパーです。暮らしに欠かせない場であり、日常的に訪れる場だからこそ、食品ロスや貧困問題を身近に感じていただける場所にもなれると思っています。社会課題解決へ向けて、お客様と一緒に取り組んでいきたいという思いで、これからも回収ボックスの設置店舗の拡大をすすめていきます。」と話してくださいました。
ライター大森が今回イトーヨーカ堂の本部・お店、フードドバンクかながわの三つの観点からフードドライブ活動を取材して感じたのは、日常生活での食に対するちょっとした心がけが、食品ロスの削減に結び付くのだということ。たとえそれがどんなに小さなことだとしても、環境問題解決へ向けた手助けとなり、一人ひとりの行動の積み重ねが、美しい地球環境の保全につながっています。「買いすぎをなくす、残さず食べる、もし食品が余ったらフードドライブへ」。この言葉をつねに抱き、今できることから少しずつ取り組んでいきたいと思います。
Photographer:山北茜
お客様相談部マネジャー
※2021年7月取材当時CSR・SDGs推進部 マネジャー
原田 晴子
事務局長
藤田 誠
管理統括マネジャー
中村 浩生
【その他取り組み】
神奈川県としても食品ロス削減と食の支援が必要な方への支援につながるSDGsの取り組みを行なっております。
詳しくはこちら
https://www.pref.kanagawa.jp/docs/bs5/sdgs-fooddrive.html