2019年2月
イトーヨーカドー構造改革の最前線
市場環境の大きな変化の中、イトーヨーカドーは現在、既存の業態観にとらわれない抜本的な改革を通じて地域コミュニティーに賑わいを生み人々が行き交う「館」づくりを推進しています。
その改革の“今”をご紹介します。
集う、学ぶ、遊ぶといった地域のコミュニティーに必要な多様なコンテンツの提供を通じて、新たな賑わいを生み出す地域拠点。それがイトーヨーカドーが目指す「館」の姿です。地域の結びつきや人間関係の希薄化が指摘される中で、地域コミュニティーとして、人と人とが触れ合うことのできる居心地の良い空間を地域に提供する――イトーヨーカドーは店舗の7割が首都圏にあり、地方を含めてその多くは駅前や商店街の中に立地しており、商業施設として多様なコンテンツを盛り込める規模を有しています。個店ごとにそうした立地の優位性や資産価値をきめ細かく検討し、地域ニーズに対応することで、従来の物販中心の業態を超えて、地域社会の中で新たな存在意義を生み出す――店舗改革の先に見据えているのは、そうした新たな店舗の在り方です。
このような視点をふまえて、イトーヨーカドーはこれまで、既存店舗の集客力や収益力をより高めるための構造改革と食品売場のゾーニング改革などによって自営スペースの在り方を根本的に見直す店舗づくりを進めてきました。構造改革では、コンテンツの多様化を迅速に図るために市場で人気の専門店などをテナントに迎えてきました。同時に、立地や商圏特性に合わせた柔軟なコンテンツの導入に向けて、イトーヨーカドー自身が新たなショップやサービス機能を開発していくことにも取り組んでいます。さらに、グループ内のアカチャンホンポやロフトといった専門店や、商業施設の企画・開発・運営を行うbet365 入金方法・クリエイトリンクとも連携。選択肢の幅を広げて地域ニーズに応じたコンテンツの導入を実現していきます。
イトーヨーカドーは、2015年から不採算の40店舗を順次閉鎖することと並行して、2017年からは地域ニーズに応じた店づくりで高収益を維持している店舗への投資も強化しています。とくにこれまで構造改革を実施した36店舗では、改革の指標としている客数が着実に向上し、坪効率も改善するなど持続的な成長の土台づくりが着実に進展しています。また、「AI(人工知能)」による発注システムの導入など先端技術を活用した生産性向上にも注力。PDCAサイクルを回しながら、賑わいがもたらす集客力を着実に成長力に結び付けています。
「イトーヨーカドー大森店」は、東京都大田区のJR大森駅から東へ約500m、オフィスビルや高層マンションが建ち並ぶエリアにあります。大森は多くのビジネスパーソンが通う「仕事の街」であると同時に、たくさんの生活者が暮らす「生活の街」でもあります。同店の半径3km以内の人口は約45万人と密度が高く、この10年間でみても人口が約4万人(約7千世帯)も増えた都内有数の人口増加地域です。近隣には駅ビルや中小の食品スーパーのほか、ショッピングセンター、ドラッグストアといった競合する商業施設がひしめいています。
こうした厳しい競争環境下にありながら、同店は2004年12月のオープン以来、bet365 入金方法の支持をしっかりと獲得し、イトーヨーカドーの店舗の中でもトップクラスの売上げを上げ続けてきました。
この大森店をさらに強い店舗として成長させるべく、2017年12月から約1年間をかけて館としての改革に取り組んできました。強みを持つ食領域のさらなる強化と新規テナントの導入によって館全体の活性化を図り、構造改革を進めるイトーヨーカドーの成功事例の一つとなっています。
4店の新規テナントとイートインスペース、鮮度が自慢の食品売場へと続く1階はいつも多くのお客様で賑わっています。
「旬を味わう」「お酒と楽しむ」「出来立てを手軽にイートインで」「楽しく、美味しくキッズメニュー」の4テーマで商品を提案する「大森 Food STYLE」。
大森店の改革においては最大の強みである食品売場の刷新に注力しました。
その第1弾として、2017年12月に4店の新規テナントを導入。輸入食品の「カルディ」、洋菓子の「シャトレーゼ」、ベーカリーの「アンティーク」、「コメダ珈琲」といういずれも人気の高い店舗を1階北側の入口に配置することで集客力を高めるとともに、今後のリニューアルへの期待感を醸成しました。第2弾となる2018年3月には、新規テナントの4店舗に隣接する形で約60席のイートインスペースを新設するとともに、寿司や惣菜を扱うデリカゾーンと自営のベーカリーコーナーも新たに設けました。
生鮮食品の売場では、大森店としての独自性を出すため、鮮魚や精肉を中心にこだわりの商品や店舗の独自ルートで仕入れた商品を「大森 Food STYLE」として展開しています。単に「名物」を販売するだけでなく、食材の調理法やマッチする酒類との組み合わせなど、よりおいしく・楽しく食べてもらうための提案に力を入れています。
たとえば、「ポンドステーキ」では、1ポンド(約450g)のステーキ肉を調理して実演販売するとともに、ヒマラヤ岩塩などのこだわり調味料や相性のよいワインを組み合わせて展開。「苫小牧王子サーモン」では、濃厚な味わいのサーモンを使ったマリネやピンチョス(パンに食材を乗せた軽いおつまみ)の調理法も提案し実演販売をしています。
こうした企画の多くには女性パート社員の意見やアイデアが活かされています。パート社員の多くは地元の住民であり、そのbet365 入金方法がどんな商品を、どう提案すれば興味を惹き、買っていただけるかを豊富な経験から熟知しています。品揃えから販促、接客まで、「大森 Food STYLE」にはパート社員の生活者としての視点が活かされています。
店舗の魅力を高めるリニューアルは、食品以外のフロアでも実施しています。領域ごとに地域ニーズに最適なテナント企業・店舗を選び、情報交換と相互連携をとりながら、館全体の活性化を図っています。
衣料品中心の2階には、カジュアルファッションの「GU」、シューズショップの「ABCマート」、100円ショップの「Seria(セリア)」というヤングファミリー層の支持が高く集客力につながるテナントを新規導入。自営の衣料スペースはシニア向け商品に絞り込んで売場効率を高めています。
また3階も「ファミリーで楽しめる子どもワールド」をコンセプトに、大胆に売場を刷新しました。従来あった日用雑貨や家電、ペット用品などを1階に移設し、代わりに子ども服や文具、玩具などの商品を集約して、遊戯スペースや赤ちゃん休憩室を拡充しました。さらにフードコートについても、従来の450席を600席に増やすとともに、新たに家族で食事がしやすい小上がり席も設置。新規のテナントを2店舗導入し、メニューのバリエーションを拡充しています。
人気キャラクター「ハローキティ」で知られる(株)サンリオにフードコートなどのデザインを依頼。今まで以上にファミリーが楽しく過ごせる空間に進化させています。
ロフトの導入により専門店の強みを活かした品揃え展開と幅広い世代の集客を実現。
「ハローキティ」をあしらったフードコートのデザインは子どもたちに大人気。左手奥が家族に人気の小上がり席スペース。
©1976, 2019 SANRIO CO., LTD. APPROVAL NO. G594150
改革が奏功し、大森店の客数・客単価はすべてのフロアにおいて順調に伸長、店舗全体に活気があふれています。
さらに、オペレーションの面でも新たな試みを始めており、その一つが「AI」を活用した商品発注です。発注業務の効率化により時間を捻出することで、スタッフがお客様に接する時間と機会を増やしお客様の満足度を高めています。
bet365 入金方法が集い、つねに新鮮な感動を届けられる「地域になくてはならない館」であるために――イトーヨーカドー大森店の挑戦は続いています。
商業施設は地域の重要な社会インフラ
株式bet365 入金方法R・B・K 代表取締役
飯嶋 薫 氏
(株)馬里邑、(株)アイマリオを経て、(株)三愛の専務に就任。1999年、三愛再編で誕生した(株)アイリード、(株)アイムの代表取締役社長に就任し、三愛復活の指揮を執る。三愛グループ退任後の2001年、(株)R・B・Kを設立。一般社団法人日本ショッピングセンター協会 理事 全国大会委員長、一般社団法人ファッション産業人材育成機構 理事も務める。
小売業に対するコンサルティング事業を展開し、業界屈指の人脈とネットワークを持つ(株)R・B・K代表取締役の飯嶋薫氏に、今後の商業施設のあり方をテーマにお話を伺いました。
ここ20年ほどの間、日本の大型商業施設は「ショッピングセンター(SC)化」という大きな流れの中にあり、この潮流は、今後都市部でも郊外でもさらに進んでいくと予想されます。また、eコマースの普及などを背景に、これからはSCという業態ですら淘汰の時代を迎えると言われています。こうした厳しい競争を勝ち抜くには、bet365 入金方法のニーズを、しっかりと満たしていく必要があります。
これは商品あるいはテナントの品揃えだけの話ではありません。ネット経由で生鮮食品も含めたほとんどの品物が購入できる現在、リアル店舗は単なる「モノを売る場」だけでは存在意義をもちません。とくに大型商業施設は、今や地域の重要な社会インフラの一つでもあり、そこには住民の情報交流やコミュニティー形成なども含めた多様な機能が求められています。さらにネットで購入した商品を受け取る「物流機能」、メーカーの新製品を見せる「ショールーム機能」など、時代の求める新たな機能の強化もこれからは必要でしょう。
人にとって第1の居場所(ファーストプレイス)が自宅、第2の居場所(セカンドプレイス)が仕事場や学校だとすれば、人が憩う、楽しむ、集う、学ぶ、遊ぶ場所は、モノやコトを得られる“サードプレイス”です。社会や地域の要請をふまえたSC経営を通して、お客様のサードプレイスになれるかどうかが、成功の鍵を握ると私は考えています。
館の創造は、ある意味で「まちづくり」と同じです。そこには自前やテナントといった運営者側の区分にとらわれず、施設全体を俯瞰しながらつくっていくプロデューサーの視点が不可欠です。この視点を運営者もテナントも全員が共有し、地域に貢献するまちを一体で目指していくことで、つねに人々が集まる館を実現できると私は考えています。